歯髄再生治療とは?メリットやデメリット、実際の症例も紹介
「歯の神経を抜いてしまって虫歯の再発や膿が溜まるなどのトラブルが絶えない」「歯の色がくすんで見た目が悪くなってしまった」などのお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
そんなときに検討してほしいのが「歯髄再生治療」です。本治療は、失われた歯の神経を再生し、健康的な歯を取り戻すものです。
今回は、そもそも歯髄とは何か、歯髄再生治療とはどのようなものか、メリット・デメリットなどを紹介します。
歯の神経を取り戻したい方はぜひ最後までご覧ください。
歯髄とは「歯の神経」と呼ばれ、歯の内部にあり、神経と血管、リンパ管が集まる組織のことを指します。
歯髄は歯の根の部分にかけて伸び、体の組織とつながっています。歯の内部にある神経と聞くと痛みを感じるだけと思われがちですが、それだけではありません。一本一本の歯に酸素・水分・栄養素を行きわたらせ、歯を丈夫に保つ重要な役割を担っているのです。
ほかにも歯髄には下記の役割があります。
痛みを感じ、脳に伝えることで虫歯や歯周病の早期発見を促す
酸素・水分・栄養素を行きわたらせ、歯を白く丈夫に保つ
象牙質の修復能力を持ち、損傷時に修復できる
細菌への抵抗力を持ち、虫歯の進行を防ぐ
生え変わってから数年以内の永久歯の成長を助ける
健康な歯髄は通常薄いピンク色で、ぷるんとした柔らかい感触です。しかし、ひどい虫歯で歯髄に影響が出た場合は、黒に変色し弾力も失われ、機能を失ってしまいます。また、加齢とともに歯髄が細くなっていくこともあるのです。
歯髄が死んでしまう原因
歯髄が死んでしまう原因は主に3つあります。
虫歯
歯周病
歯に強い力がかかった場合
虫歯は歯髄が死んでしまう一番の原因です。重度の虫歯になると歯髄を覆っているエナメル質や象牙質が少しずつ溶け、虫歯菌が歯髄にまで達してしまいます。
悪化した歯周病も、歯周病ポケットと呼ばれる歯と歯茎のすき間から歯周病菌が入り、歯髄を殺してしまいます。
さらに、強い歯ぎしりや食いしばり、衝突や転倒など歯に強い力がかかった場合も、歯髄にダメージを与えてしまうのです。
歯髄が死んでしまうと、通常歯科医院で歯髄を抜く治療を行います。これを「神経を抜く」とも言います。
歯髄が失われた際のリスク
歯髄が失われた際のリスクは大きく5つあります。
虫歯になりやすくなる
歯の異常の発見・治療が遅れる
歯が割れる
歯の見た目が悪くなる
歯根に膿がたまる
順番に解説していきます。
虫歯になりやすくなる
歯髄が死んでしまい細菌への抵抗力がなく、さらに象牙質が失われていることで、虫歯になりやすく、進行しやすくなってしまいます。
歯の異常の発見・治療が遅れる
歯 髄が死ぬと痛みを感じなくなり、虫歯や歯周病などの歯の異常に気づけなくなります。その結果、発見が遅れ、治療も遅れてしまい、症状はどんどん悪化してしまうのです。
歯が割れる
歯髄が失われ栄養素が歯に届かなくなったり、根の治療によって薄くなってしまい、歯がもろくなり割れやすくなります。歯が割れると歯の寿命も短くなり、若くして歯を失う可能性もあります。
歯の見た目が悪くなる
歯髄には血液を循環させ歯の色を白く保つ役割があります。歯髄が機能しなくなると血液の循環もなくなり、変色し見た目が悪くなってしまうのです。
歯根に膿がたまる
歯髄が死に神経を抜いた場合、通常詰め物をします。その詰め物が不完全だと細菌が侵入し、歯の根に 膿がたまってしまうこともあります。
歯髄を失ってしまった場合に有効なのが歯髄再生治療です。
通常歯髄が死んだ場合は、歯髄を抜き詰め物を詰めます。しかし、歯髄再生治療では歯髄を抜いた後に他の歯の「歯髄幹細胞」を移植することで、歯髄・象牙質を蘇らせるのです。
歯髄幹細胞
歯髄幹細胞とは、歯髄に存在する幹細胞のことを指します。幹細胞とは、体内のさまざまな細胞に変化できる分化 能力と呼ばれる力と、同じ機能を持つ細胞に分裂できる自己複製能と呼ばれる力を持っています。
歯髄はエナメル質や象牙質で守られており、外部からの攻撃を受けにくく、遺伝子も傷つきにくいです。そのため、良質な幹細胞を採取しやすいのです。さらに歯髄幹細胞は他の幹細胞と比較して神経や血管に分化しやすいと言われています。そのため、歯髄再生治療が可能なのです。
歯髄再生治療では、本来捨てられることが多い乳歯や親知らずから歯髄幹細胞を採取します。
治療手順
治療は以下の手順で進めていきます。
①カウンセリング
医師より治療の説明を受けます。不明点があれば遠慮せずに聞きましょう。不安な気持ちを残さないことが重要です。
②検査・歯科ドック
CT等を撮影し、根の状況や親知らずの位置などの確認を行います。
必要に応じて嚙み合わせの検査を行うことも。かかりつけの医院での血液、尿検査も受ける必要があります。
③不用歯の抜歯・歯髄幹細胞の採取と培養
治療可能で治療内容に同意をしたら、親知らずなどの不用歯を抜歯。抜歯した歯から、歯髄幹細胞を採取し、培養します。培養には1~2ヶ月ほどの時間がかかります。
培養が完了した細胞は凍結保存され、医院での移植時に解凍します。移植の日時は人によって違い、凍結しておかないと細胞が死んでしまうからです。
また、歯髄再生治療を行う歯科医院はアエラスバイオ歯髄幹細胞バンクと提携しており、治療を受けるほとんどの方が歯髄をバンクに預けています。不要歯が1本しかない、複数の歯を治療 する、将来再生治療をしたいと考えている場合は、バンクに預けておいた方がいいでしょう。
④歯髄幹細胞の移植
治療対象となる歯の神経を抜き、培養した歯髄幹細胞を移植します。
⑤経過観察(約6か月~1年)
歯髄幹細胞の増殖を確認しながら、治療から1週間、1ヵ月、3ヵ月、6ヶ月、1年後のタイミングで経過を観察します。基本的にはこの5回ですが、状態によって変化する場合もあります。
⑥被せ物・詰め物の取り付け、治療終了
十分な増殖が確認されれば、被せ物や詰め物を取り付け、治療は終了です。
歯髄再生治療には歯が長持ちする、全身疾患などへの応用も期待できるなどのメリットがあります。それぞれ解説します。
歯が長持ちする
歯髄幹細胞を移植した歯は、再生治療前に削った根管部分も再生できます。もともと歯髄があった部分には歯髄が、象牙質があった部分には象牙質が再生され、歯の強度が高まるのです。
また、歯髄は歯に栄養素や水分を運ぶ役割もしているので、歯が割れにくくなります。
この2つのことから、虫歯や歯髄炎、根尖性歯周炎になりにくく、歯が長持ちしやすくなるのです。
全身の健康につながる
歯が長持ちすることで、自分の歯で食事を楽しめ、噛む運動ができるなどの利点があります。噛む運動は口の筋力を上げることはもちろん、全身の筋力が向上すると言われています。
また、噛むことは脳の活性化にもつながり、身体の運動機能や認知機能の改善につながるのです。
二次カリエスを防ぐ
歯髄を抜いてしまい、詰め物で蓋をする根管治療ではなく、歯髄再生治療を選択することで、二次カリエスのリスクを低減することができます。二次カリエスとは、一度治療した歯が再び虫歯になることを指します。
歯髄再生治療には、費用が高額、治療に時間がかかるなどのデメリットもあります。それぞれ解説していきます。
費用が高額
歯髄再生治療は、保険診療では受けられず、自由診療での治療となります。そのため、費用が高額です。
実際にかかる費用相場は下記です。
前 歯:約60~80万円
小臼歯:約70〜90万円
大臼歯:約80〜100万円
治療期間が長い
歯髄再生治療は、治療期間が長いです。歯髄幹細胞の培養は、約2ヶ月程度かかり、移植後も歯髄と象牙質が再生されるまで約6~12ヶ月の期間がかかります。
歯髄・象牙質が再生したあとも被せ物を作り被せる必要があるので、人によっては1年以上の時間を要する場合もあります。
治療場所が限られる
歯髄再生治療は、高度な技術や特殊な設備を必要とするため、国に提供計画の届け出をして受理された医療機関でしか治療をすることができません。
届け出をして受理された医療機関は少ないため、治療できる医院が限られます。
歯髄再生治療の症例を紹介します。
歯髄再生治療でよくある質問にお答えします。
治療を受けられない条件はありますか?
下記に該当する方は治療を受けられませんので注意しましょう。
7歳未満または70歳以上の方(抜歯時)
抗菌薬や局所麻酔薬にアレルギー歴をお持ちの方
妊娠中・妊娠の可能性がある方(治療中の避妊要)
その他、担当歯科医師が対象外と判断した場合
また、下記の疾患を患っている方、その疑いがある方は治療を受けられません。
梅毒トレポネーマ、淋菌、結核菌などの感染症にかかっている方
敗血症または敗血症の疑いのある方
悪性腫瘍のある方
代謝や内分泌の疾患(糖尿病、甲状腺機能亢進症・低下症など)にかかっている方
膠原病、関節リウマチ、骨粗しょう症などを患っている方
心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、大動脈解離など)にかかっている方
肝疾患(肝炎ウイルスなど)にかかっている方
認知症や伝達性海綿状脳症などの脳疾 患にかかっている方
家族歴がある特定の遺伝性疾患にかかっている方
さらに、歯に関しては、下記の状態だと治療ができません。
根が縦に完全に割れてしまっている
残根(短い根だけ残っていて被せることが不可能な状態)
重度の歯周病でかなり動揺している
治療時に痛みはありますか?
治療は基本的に一般的な根管治療です。痛みに敏感な方は局所麻酔をしてから行いますので、心配はいりません。移植時に痛みはありません。
移植後の生活の制限などはありますか?
移植前後は、仮蓋や仮歯が入っていて、硬いものなどで割れてしまう可能性があります。そのため、最終的な詰め物や被せ物が入るまでは硬いものを噛むこと はなるべく避けた方がいいでしょう。
今回は、歯髄再生治療とは何か、メリット・デメリット、症例などを紹介しました。
歯髄再生治療は歯にかかせない神経である歯髄を再生させることで、健康な歯を取り戻せ、全身の健康にもつながるなどのメリットがあります。
一方で、費用が高額、治療期間が長いなどのデメリットもあります。
また、妊婦など治療を受けられない方もいるので、留意しておきましょう。
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