ワイヤーによる部分矯正の適応症例は?全体矯正との違いと費用・期間を紹介
ワイヤーを使った部分矯正は、2〜6本程度の歯だけをピンポイントで動かせる矯正方法です。実際にどのような歯並びを治せるのか気になる方もいるでしょう。本記事ではワイヤーを使った部分矯正の適応症例や全体矯正との違い、目安費用・期間を紹介します。
鈴木 美穂
日本歯科大学卒業後、日本歯科大学附属病院にて研修に励み、日本歯科大学矯正学講座に入局し、日本矯正歯科学会認定医を取得。その後、医療法人社団矯栄会 六本木 広瀬矯正歯科にて経験を積む。日本大学大学院 歯学研究科の博士課程を修了し、博士号を取得。2020年に吉祥寺矯正歯科クリニックを開院する。日本矯正歯科学会、東京矯正歯科学会、顎変形症学会、日本口蓋裂学会、日本歯科保存学会、日本接着歯学会など多数の学会に所属している。
「ワイヤーを使った部分矯正はどんな歯並びに対応しているの?」「マウスピース矯正と何が違うの?」など、ワイヤー矯正の部分矯正で疑問を抱いていませんか??
ワイヤーを使った部分矯正は、2〜6本の気になる歯並びを治せる矯正方法です。しかし、適応症例が限定されており、希望すれば誰でも行える矯正方法ではありません。
そこで今回は、吉祥寺矯正歯科クリニック の鈴木 美穂先生監修のもと、 ワイヤーを使った部分矯正とはどのような治療なのか、全体矯正やマウスピース矯正との違い、目安費用や期間を紹介します。
メリットとデメリットも解説していますので、部分矯正を考えている方はぜひ参考にしてください。
ワイヤーを使った部分矯正とは、治したい2~6本程度の歯と周囲の歯だけに装置をつけて歯並びを整える矯正方法です。
歯並びを改善する以外にも、歯周病予防や被せ物を装着する際の歯の位置調整で行われることもあります。
使用する装置の数が少ないため、歯を動かす際に生じる痛みや費用を抑えられます。また、動かせる範囲も限定されているため、治療期間が比較的短くなるのも特徴です。
ワイヤー矯正には歯の表側に装置をつける表側矯正と、歯の裏側に装置をつける裏側矯正があり、どちらも部分矯正に対応しています。
全体矯正との違い
全体矯正との違いは、噛み合わせを治せるかどうかです。全体矯正は、すべての歯にブラケットとワイヤーをつけて一本ずつ歯を動かし、歯並びだけでなく噛み合わせも整えられます。
一方、部分矯正は見た目の改善に焦点を当てており、噛み合わせの調整は行われません。
マウスピースによる部分矯正との違い
マウスピース矯正の場合は、部分矯正であっても歯列全体にマウスピースを装着する必要があります。また、前から5番目までの歯を対象としているので、奥歯のみを矯正できません。
一方、ワイヤー矯正の場合は、治したい歯とその周辺に装置をつけるため、奥歯だけ治すことも可能です。たとえばシザーズバイト、鋏状咬合なども可能です。
目安費用(33万~77万円)
部分矯正の目安費用は33万~77万円程度です。クリニックによって費用は異なりますが、全体矯正に比べて安価です。
ただし、使用するワイヤーやブラケットによっても価格は変動します。裏側矯正や目立ちにくい白いワイヤー・ブラケットを選択すると、費用が高くなる傾向にあります。
部分矯正は手軽に始められる価格設定ですが、クリニックによっては相談料・検査料・診断料が別途かかることがあります。(目安は5,500~66,000円)
部分矯正の値段は?前歯のみ・1本だけの矯正費用はいくらぐらい?
目安期間(2ヶ月~1年程度)
目安期間は、2ヶ月~1年程度です。部分矯正は歯を動かす範囲が限られているため、全体矯正に比べて短期間で完了します。
ワイヤー矯正の期間はどれくらい?大人と子供に違いはある?
部分矯正は、比較的軽度の症例に限定されているため、すべての方に適応するわけではないことを理解しておきましょう。ここでは、ワイヤー矯正による部分矯正で治せる可能性が高い症例を3つ紹介します。
前歯に限定されているすきっ歯
すきっ歯とは、歯と歯の間に隙間が空いている状態のことです。前歯のすきっ歯は部分矯正で対応できます。ただし、奥歯まですきっ歯になっている場合は、噛み合わせを整える必要があるため、全体矯正が適しています。
軽度のガタガタの歯並び
前歯の1~3本のガタガタの歯並びは、部分矯正で治せる可能性があります。ただ、噛み合わせが大きくずれている場合は、全体矯正が必要です。
部分矯正で前歯の重なりは治せる?可能な症例や費用相場を解説
矯正後の後戻り
矯正治療後の後戻りは、症状によって異なりますがワイヤーを使った部分矯正で対応できます。以前行った矯正治療よりも治療期間も比較的短くて済みます。
以下の症例は歯を動かす範囲が広くなり、噛み合わせの改善も必要となるため、全体矯正が適しています。
重度のガタガタの歯並び
前歯のガタガタが3本以上ある症例では、歯が生えるスペースが不足していることが多いです。また、噛み合わせに問題が生じていることも多いため、抜歯をともなう全体矯正が必要になります。
出っ歯
前歯が大きく前方に出ている出っ歯は、部分矯正が適応外になることがあります。出っ歯の原因は主に3つあり、1つは上あごの過成長、もう1つは下あごの劣成長、そして歯の生え方によるものです。
歯の生え方によるもので軽度の症例は、部分矯正で対応できる可能性があります。しかし、あごの骨の問題による出っ歯は、前歯を大きく後方に移動させる必要があるため、全体矯正や外科矯正が適しています。
受け口
上下の噛み合わせが反対の受け口は、ワイヤーを使った部分矯正で治すのは難しいです。全体矯正が適応になることが多く、あごの骨の問題によって生じている受け口は外科矯正が必要になります。
開咬
開咬とは、奥歯で噛んでも上下の前歯が開いてしまう状態のことです。前歯だけの問題と捉えられがちですが、奥歯の高さが原因で生じます。そのため、ワイヤーを使った部分矯正では対応が難しく、全体矯正が適応 になります。また、原因の除去(後戻りの予防)としてMFT(口腔周囲筋訓練)などが重要とされているのです。
ここでは、ワイヤーを使った部分矯正のよくある質問を紹介します。
メリットやデメリットは?
部分矯正は使用する装置の数が少なくて済むため、費用を抑えられます。また、動かす範囲が狭いため、全体矯正と比べて痛みや違和感が少なく、比較的短期間で治療が完了するのがメリットです。
ただ、部分矯正は見た目の改善を目的としており、噛み合わせの改善はできません。骨格に問題があるような重度の症例は、全体矯正や外科矯正が必要になります。
また、歯を並べるスペースが不足している場合は、研磨処置*が必要になるのがデメリットと言えるでしょう。
歯と歯の間をヤスリで削る処置のことです。エナメル質を0.1〜0.25mm程度削り、歯を並べるスペースを確保します。「ディスキング」や「IPR」と呼ばれており、矯正治療では一般的に行われています。
全体矯正と部分矯正はどっちがいいの?
全体矯正と部分矯正どちらがいいかは、症例により異なります。全体矯正はすべての歯を動かせるため、軽度~重度の症例まで対応でき、満足のいく仕上がりになりやすいです。
一方、部分矯正は動かせる範囲が限定されているため、歯並びの状態によっては仕上がりへの妥協が必要になる可能性があります。
部分矯正は希望すれば、誰でも行えるものではありません。全体矯正が適応なのに部分矯正をすると、あなたが理想とする歯並びとは異なる仕上がりになる可能性が高まります。
全体矯正と部分矯正で迷っている方は、まずは精密検査を受けましょう。
通院頻度はどのくらいですか?
ワイヤー矯正は、通常1ヶ月に1回歯を動かすために必要な処置を行う通院日が設けられています。これは部分矯正であっても同様です。予定通りに治療を完了させるためにも、毎月欠かさずに通院しましょう。
リテーナーは必要ですか?
矯正後は歯が元の位置に戻ろうとする後戻りが起きやすいため、リテーナーの装着は必須です。装着期間は、ワイヤーを装着していた期間にプラス半年が理想とされています。症例によって異なりますので、ドクターの指示に従ってリテーナーを装着しましょう。
ワイヤーを使った部分矯正は、「大切なイベントまでに歯並びを治したい」「目立つところだけ治したい」といったニーズに合った矯正方法です。
ただし、希望すればできる治療ではないことに加えて、噛み合わせの改善はできないという点をしっかりと理解してください。
また部分矯正の場合、マウスピース矯正の方が費用を抑えて矯正できる可能性があります。(ただし抜歯をともなう重度の歯並びには対応できない場合もあります。)
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